四話**
褐色の肌の人々の多いこのマカルナの地には珍しく、色白の肌の女性だった。
痩身で、背がすらりと高い、きつい目をした美女だった。
ベージュのトレンチコートの下には、真っ赤なワンピースを着ているが、足は裸足だった。
エディは靴磨きの仕事に就いたときから、職場にと、この古い小さな宿に住みついているのだが、突然訪れたこの美女が裸足であったことに驚いていた。
こんないい身なりをしていながら、足はなんで裸足なんだよ?
そんな疑問を顔には出さないようにしていたが、しっかり見抜かれていたらしい。
「あら、失礼。そりゃあびっくりするわよね。ごめんなさい。
上がろうとは思っていないから、大丈夫。気にしないで。」
明るく笑ったその笑顔は、見る者をうっとりさせるかのように、美しかった。
(でもイキナリため口かよ)
「怪しい者じゃないのよ。」
「…十分怪しいけど?」
「あはは!そうれもそうだわね。自分で怪しくないなんていう奴に限って怪しいのよね!」
コロコロ笑うこの美女の、訪れた理由が全く見当もつかない。
エデイは、この街に着いてからというもの、従来のエディの性格からが想像もできないようなくらい、他人からは心を閉ざしていた。
閉ざすといっても、元来彼は明るい性格なので、人から距離を置くといった程度にしか思わせないのだが。
それでも、距離なんてものとは呼べないくらいには、彼は誰にも心を許していなかった。
氷の橋を渡っていけるように、それに伴う要領と愛想の良さが、彼の心を隠していた。
(世渡りは上手くなったと思うが、こんな訳わかんねぇ奴に付き合っていられるほど気は長くねーんだが)
ドアを閉めようとした矢先、
「私、あなたの母親を知っているの。」
閉めようとした手が止まる。
瞬間、背中が凍りつく。
聞き間違いかと思ったので、聞き返す。
「…今、なんつった?」
「だから、あなたの母親を知っているんだって。」
女がにっと笑う。
その表情は、先ほどの笑顔とは違い、どこか凍てつくような妖しさを感じさせるものであった。
その瞳の奥に一瞬宿った光に、エディは気づかなかった。
俺の母親を知っているって?この女が?
「あぁ。靴はね、人に持っていかれたのよ。ひどい事するわよね?
足が痛いったら・・・。ねぇ、そう思わない?」
先を促すエディの視線をはぐらかすように、女はさも足が痛いかのようにさする。
「…入れよ。」
女がにっと笑う。
後になって思うと、何であの時あの女を入れたのか。
理由は、簡単だった。
彼の、生きてこれた理由の欠片を、初めて見つけたかもしれないのだ。
***************************
「あれは、エディにとっては忘れられない出来事だったろうねぇ。」
ポツリと呟くアリィの言葉が、何故だかフルートの胸に刺さった。
***************************
| 固定リンク
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 単なるグチと、弱音でゴメン!(2008.05.31)
- グチ(2008.05.18)
- めっちゃ眠い!(笑)(2008.05.09)
- 二話**(2008.04.25)
- コーヒーブレイク…て、今でもいうんかな?(2008.04.27)


コメント