三話**
傷だらけの足をひきづって、ようやくこの地に着いたときには夜が暮れようとしていた。
今まで見た事のない、湖だった。
この先、どこまで続いているのか。果てしなく広大で、美しい湖だった。
身体中が、痒い。
もう何日も、何日も、悪夢から無我夢中で逃げてきた。
振りほどこうとしても、追いつかれて、やがて呑まれる。
空っぽの心に、抜けない棘が刺さっている。
その棘は、やがて彼の心臓まで達して、生命を奪うだろう。
決して答えの出ることのない疑問を振り払おうとするが、許されない。
ただもう、故郷には居る場所がなかった。
「はぁ、はぁ…。」
真っ赤な月が湖を照らす。湖まで、赤く染まっているかのようであった。
「ちくしょう…。ここは、どこだよ。」
「ここは、アウラスの湖だよ。知らないのか、坊や。」
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それが、エディとアリィの出会いだった。
エディは、このときこの老婆に何を喋っていたか実はよく覚えていない。
ずいぶんと長い時間喋っていたようだが、ただただ怒りに任せて吐き散らしていたかのように思う。
それからこの街で住むことになり、職を見つけた。
靴を磨いて、磨いて。合間に、絵を描く。
そして、生まれたときに死んだと聞かされていた母親を探した。
そうだ。母親の胸に抱かれていた唯一の記憶は、確かにあの湖だ。
”赤い月の見下ろす、アウラス”と父親に聞いていた。
けれど、どうやって探すか…。手がかりは、何もなかった。
そんなときに出会ったのが、一人の女だった。
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「あいつは私と再会する前に、一人の女と出会っていた。
そのときのエディは、父親を憎む気持ちと、母親に会いたい一心で生きていたんだ。」
自分と別れた翌日に、姿を消したエディを思う。
フルートは、ただ呆然とアリィの話を聞いていた。
自分と別れたあの夜に、何があったんだろう。
それをこの老婆は知っているのか。
「聞きたいことが山ほどあるのは分かってるさ。
だが私がこれから語る話は事実だけだ。そっからどうするかは、お前さん次第なのさ。」
そんな謎めいた言葉を残されても、分かるもんか。
そう思うが、とりあえず話を聞かないことにはこの老婆は教えてくれそうになかった。事実、フルートには衝撃的な話だった。
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