二話**
赤い月が照らす広大な湖のほとりで、フルートとアリィは腰を下ろしていた。
身の凍えそうな寒さのなか、白くなる息をつきながら、二人はしばらく月を見つめていた。
この老婆に聞きたいコトが山ほどある。
だが、穏やかのようでナイフのように鋭い眼光をもつこの老婆に
何か聞こうとすることは無粋なことかと思えた。
フルートは、これから聞かされる大切な待ち人の話に
少し緊張しながら、身をこわばらせていた。
「そんなに固くなんなさんな。…お前さんの約束の相手はエディ・モーラス。
間違いないね?」
「そうだ。…エディはなぜ来ないんだ?」
アリィはすぐには答えず、左のポケットからタバコをとりだして、火をつける。
「…来ないんじゃない。このアウラスの湖の掟に破いちまって、来れないんだ。」
掟?フルートがこの地、マカルナの街に来てもう5,6年になるがそんな話は聞いたことがなかった。
ただ、この湖には古い言い伝えがあって、誰もここには寄り付かないということだけだった。
「私がエディと出会って、もう7年になるか。
今晩のように、真っ赤な満月の下で、ちょうどこの場所で出会ったんだよ。」
7年前というと…、フルートの前からエディが姿を消したときだ。
その頃、エディは故郷から遠いこの地に来ていたというのか。
「あん時のエディは、子憎たらしいガキだったな。」
「…エディは、ここで何をしていたんだ?」
「親父さんから逃げてきて、母親を探しているんだといった。
それで、この湖までたどり着いたんだといいおった。」
エディが、親父さんから逃げてきた?
信じられない。
あの頃の、父親に向けるエディの優しさが脳裏に浮かぶ。
彼は、父親のためならなんでも捨てると言った。
そして、はにかんだような笑顔で頭をかく。
いつも思い出すのは、彼のそんな仕草だった。
信じられない顔をしているフルートを尻目に、アリィは短くなったタバコを
まずそうに吸う。
「人の人生なんて、何がおきるか最後まで分からないもんだ。」
そうして、感傷に浸るように、呟く。
「あんな事がなければ、あいつは今頃ここで約束を遂げていたんだろうねぇ。」
「あんな事?」
「そうさ。…母を探しているといったあいつと次に会ったのは、
その翌年だ。…土砂降りの日だった。」
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